出会った動物たち

ツキノワグマ

 このクマに出会ったことは以前にもあった。
まだ20代の頃、後立山連峰を縦走中、尾根から50m程度低く、
けもの道のような処を、そのクマは私と同じ方向に歩いていた。
かなり離れていると分かっていても、やはり恐ろしく、早く消え
てくれと心の中で叫んでいた。
幸いこちらの方にはやって来なかったが、かなり大きなクマであった。

 川場では、家の近くに大きな杉の木があり、その表皮を広範囲に地面から
上に剥がした跡があった。
その地上部すれすれの処に洞があり、おそらく気が付かなかったが、
ハチの巣があったと思われた。
その巣を採るためにクマが表皮を剥いだとみられる。
家の近くにもやはりクマはやって来るのだと身振るいしたともあった。

 まだ30代前半の頃、武尊山の東側にある江戸沢の上流で一晩テントを
張ったことがある。
夜中にシュラフの中で寝ていたら、テントを押し倒すような音で
目が覚めた。
テントがかなり揺れており、ツキノワグマと直感した。
恐怖で、とても外に出る勇気もなく、早く去ってくれと、身を縮こませて
ただ祈るばかりであった。
その内、聞こえる音が沢の音だけとなった。
この時どれだけ安堵したか。
思い出すだけでも恐怖が蘇ってくる。

 マイタケ採りに行ったとき、ミズナラ林でかなり枝が折られ、
地面に落ちていた。
ふっと見上げると枝分かれしている処になんと子グマがいるではないか。
こちらをじっと見ており、母クマも近くにいるかもしれないと思い、
写真を撮って直ぐにそこから立ち去った。
後から振り返ると、よく母クマに襲われなく済んだものだと、
幸運に感謝であった。
キノコ採りの際には鈴を鳴らし、いざという 時のためにスキー用の
ストックを片手に歩くことにしている。
しかし、背後にクマが棲んでいる森があると思うだけで、
豊かな気持ちにさせられることも事実だ。

ツキノワグマ

二股になった中央の幹にコグマが見える

イノシシ

 川場に家を構えてから10数年経った頃でも、
この辺りではイノシシがいるとの話は聞いたことがなかった。
しかし近年わらび採りで斜面を歩いていると、イノシシが植物の根を
食べるために掘ったと思われる穴がそこかしこに見られるようになった。
また、家の前の池ではあちらこちらの岸辺がほっ繰り返されており、
池の形が変わってしまったこともあった。

 村では近年イノシシ駆除を推進しており、家の近くでも何ヶ所も捕獲の
ための仕掛けが置いてある。
ある日、仕掛けを見回っている人が、イノシシが捕まっているのを見つけた。
その人が電話で知らせたら、直ぐに鉄砲を担いだ人がやってきた。
見ると200キロもありそうな、大きなイノシシが仕掛けに足を取られ、
のた打ち回っていた。
とにかく凄味があり、怖かった。
頼んで殺すところを見させてもらった。
普通はトラックに運び込み役場まで持って行くそうだが、大きすぎて
運べないとのこと。
尻尾を切り取って駆除した証とし、スコップでその場所に埋めたようである。
私としてはツキノワグマよりイノシシの方が恐ろしい存在である。

イノシシの糞

家の近くでのイノシシの糞

ニホンザル

 最も頻繁に見かける哺乳類だ。
とにかく野菜などの被害が大変だそうで、村では最も嫌われ、
コメの収穫時期の秋ともなると大きな音で脅かしている。
話では、明日にでも収穫するはずのトウモロコシを両脇に抱えて
持ち去るとのこと。
他にリンゴなどの果物の被害も大きいそうだ。
頭がいいので完全に被害を防ぐことは難しいようだ。
家の下では数年前に電気柵で辺り一帯を囲ったが、侵入防止効果はありそうである。

 村の人に怒られそうだが、この動物を眺めるのは好きである。
3月頃、まだ植物の葉も出ていない時期、子ザルも交じって10数頭、家の前の
桑の木の樹皮を剥いで食べる様子を見るのは楽しい。
同じく春先、草花が出始めの頃、群れで庭に訪れ、こちらを伺いながら食べる
様子もかわいいものだ。
またある時、庭の先に電線が横切っているが、この電線を親とみられるサルが電柱を上り、
下にある電話線を足にかけ、上にある電線を手でつかみ、渡っていた。
その後小さな子ザルが、ゆっくりと恐る恐る同じように渡るではないか。
その姿が何ともかわいらしかった。
これらの行動は、大人のサルが子ザルに対して行う、厳しい場所で移動するときの訓練の
一つだったのではないか、そう考えると野生の凄さが身に染みて感じられる。

 しかし、何年か前の冬、その年はかなりの豪雪であった。
この家は玄関先が一段高くなっていて、屋根に覆われており、雨や雪が入らない構造
になっている。
春先訪れると、その場所でサルたちが越冬したのか、糞や毛が散らばり、電話線は切られ、
雨どいは壊され、網戸は引きちぎられ、散々な被害にあったことがある。

 その時はさすがにサルたちを憎んだ。
それ以来、動物の嫌がりそうな臭気を出す物質を置くことにした。
いろいろ試したが、手ごろなものとしてナフタリン製剤を瓶に入れ、何ヶ所か置き、
周辺にこの臭気を漂わせることで効果が上がっているようだ。

ニホンザル

家の横で春クワの表皮を食べるニホンザル

トガリネズミ

 家を構えて数年すると、天井裏でごそごそという音が度々聞こえ、
気になり始めた。
家ネズミが入り込んだのだろうと思っていたら、粘着性のあるネズミ捕りに
かかっていたのは口の尖がった、今まで見たこともないネズミのような動物であった。
調べてみるとトガリネズミ科の一種であることが分かった。
この動物はネズミの種類とは程遠く、モグラに近い動物のようである。
家の造りは外壁が杉板で覆われているため、隙間だらけで、このような小さな生き物が
入ってくることが十分考えられる。
ある時、天井の梁の上を歩いているのを見つけ、机の上に上って掴み取ろうとしたとき、
指を噛まれた。
結構な痛さで、咬む力は相当なものだと思い知らされた。
その痛さのせいで取り逃がしてしまったが、面白いことに毎週訪れるときはネズミ捕り
にかからないが、2週間以上開けていると必ずと言ってよいほどかかっている。
かなり音や人の気配に敏感な動物のようである。

 他に見られた哺乳類は、キツネ、タヌキ、テン(金色に輝く毛並みは美しかった)、
カモシカであった。