Vol.9 岩手震災復興ボランティアに参加して ~僕らは微力ではあるが、無力ではなかった~
田中 大司
「微力ではあるけれど、決して僕らの力は『無力』ではない。」
このボランティア参加で知り合った一人の男の子の言葉が心に焼き付いています。
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現地で僕の目の前に飛び込んできたのは、今まで目にしたことのない世界、それは戦場のようにも見えました。 僕は、あっ…という言葉しか出ませんでした。 僕は被災地といえば人であふれ返っていて、辺りには物が散乱している状態を想像していましたが、実際はひと気もなく無の世界。 しかし、ふと目をやると瓦礫の山がいくつもたくさんあり、それはただただ作業に邪魔な物を集めただけという存在でした。 一眼レフカメラを握っていたものの、シャッターを押して良いものか戸惑いました。
ボランティア作業は3日間行いました。まず大槌町にて「菜の花プロジェクト」という団体のもと、河川敷に菜の花畑を造るための土起こしでした。次は陸前高田市内の漁港にて、重機の入れない崖付近での瓦礫撤去作業でした。
作業中に特に印象に残っている点を以下述べます。
■ 民家には想像を超える高さにある津波の跡が残っていました。住んでいるおばあちゃんは元気に暮らしていましたが、いまだに甥っ子さんが見つかっていないようでした。
■ 近くの中学校は人の気配が無く、校庭のグラウンドには、ぐしゃぐしゃになった車がどんどん運ばれていました。
■ 山の斜面林が燃えた跡が残っていました。この火事は消火できないまま、奇跡的にも降雪で鎮火されたそうです。
■ 土起こしの作業中に婚約指輪ではないかと思われる指輪が見つかりました。
まだまだ多々ありますが、見れば無残、語るも無残のような状況でした。
菜の花プロジェクトのリーダーが震災当日のことを語ってくれました。 その中で強く印象に残ったのは、震災から立ち上がり、復興に立ち向かっている彼の力みなぎる姿でした。
「大事にしていたものが、あっという間に消えた。そこで気づいた。何かを大事に抱えて生きるよりも、毎日毎日一日一日を大事に生きることが大切だ。」
僕はその言葉を聞いて、ゼロから立ち上がる人間本来の強さを見ました。 自分自身、毎日を大事に生きることは頭で理解していたものの、生死の境に遭遇した人から聞いたのでは、重みが違いました。 それで一層自分も微力でも助けになりたいと思うと新たな力がわきました。
僕は震災の映像を見て、動植物への被害も気になっていました。驚くことに自然も頑張っていました。 震災からまだ数ヶ月というのに、ぐしゃぐしゃの車からは植物が生えてきています。車のシート上に、ほんのわずかに土があるだけなのに。 電信柱等で営巣するスズメは、壊れたパイプや鉄骨の中を利用して巣を作っていました。彼らの生命力の強さにあらためて驚嘆しました。
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今回僕が被災地のためになろうと思っていたのに、現地で力強く生き抜く被災者の姿を見て、逆に元気を授けてもらいました。僕は微力だったかもしれないけれど無力ではなかったと実感できたからこそ、授かった元気は僕の中で増幅されたようです。
'11.08.